March 7, 2006

ミラン・バビッチ氏の自殺



あの幻の国クライナ・セルビア人共和国の初代大統領だったミラン・バビッチ氏が5日の午後、自殺したという報道がありました。ご冥福をお祈りします。

ハーグ旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷で有罪を認め、国外(場所は明らかにされていない)で服役していましたが、ミラン・マルティッチ氏に対する戦犯法廷で証言するため、先月からハーグに戻されていました。バビッチ氏自身の裁判はもう終わっていて、懲役13年が下されています。しかし、旧ユーゴスラビアの戦争犯罪の内幕を知る最重要人物の一人として、他の戦犯の裁判で証言することも多く、この生き証人がいなくなったということは、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷にとっても非常に大きな痛手です。

とくに最近のニュースでは、セルビア系のラトコ・ムラディッチ (Ratko Mladić)元将軍がセルビアでついに発見されたという報道もあり(投降を促している最中だという)、また、クロアチアのアンテ・ゴトヴィナ元将軍も去年逮捕されましたし、逃亡中の戦犯被告人が続々と見つかっているような状況の中での自殺。戦後、自分が戦争中に犯した過ちを恥じ、自責の念にかられると話していたそうです。ぜひともがんばって生き延びて、裁判に協力してほしかった・・・。

実際、ミラン・バビッチ氏は、数いる戦犯の中でも、捜査にすごく協力的だった人です。旧ユーゴスラビアのミロシェヴィッチ前大統領に対する戦犯法廷でも積極的に証言し、ミロシェヴィッチ氏の行動と嘘を非難しました。また、クロアチア領内に発生したクライナ・セルビア人共和国の建国には、ミロシェヴィッチ氏が大きく関わっていたことを認めました。しかし、その正直さのせいでセルビア人からは裏切り者呼ばわりされ、クロアチア人やムスリム人からは戦争のことで恨まれ、もう何も失うものがないところまで来てしまっていたのかもしれません。

旧ユーゴの戦争犯罪人で、戦争中の過ちを振り返り深く謝罪したバビッチ氏のような人は今のところ珍しいです。クライナ・セルビア人共和国が出来た1991年頃、バビッチ氏は年齢にして30代半ば。そんな若さで一国(国とは言っても自称でしたが)の大統領に選ばれたんですね。先月50歳になったばかりでした。一部では、誰かに脅かされて家族や何かを守るために自殺せざるを得なかったという憶測も流れています。真相は分かりません。

旧ユーゴスラビアの戦争犯罪では、一体誰に責任があったのか、いま誰が真実を言っていて誰が嘘の証言をしているのか、未だに解明されていない部分が多いです。証拠隠滅工作もたくさん行われているので、記録が消されてしまえば罪が立証できません。(参考:証拠隠滅工作の例)戦争を始めた悪者達がうまく逃げて、お国のために戦った者が捕らえられて罰せられている・・・。という印象を持つ人々も現地には多いそうです。

先月なども、ボスニア・ヘルツェゴビナがセルビア・モンテネグロに対して戦争の賠償を求めて訴えを起こしたというニュースがありました。本当は13年前の1993年3月に、ボスニア・ヘルツェゴビナが旧ユーゴスラビアに対して同様の訴えを起こしていますが、旧ユーゴの残存が現セルビア・モンテネグロなので、そこを訴えています。13年もたって、やっと裁判にこぎつけるって、なんとまぁ遅い・・・。こういうところからも国連への不信感が増してくるのでしょう。ボスニア・ヘルツェゴビナ側から見れば、旧ユーゴスラビアのセルビア人がクロアチア人とボシュニャク人(ムスリム)を迫害して追い出そうとしたことが、国連の国際司法裁判所でやっと裁かれる、ということのようです。詳細は下の記事で。(英語)

Serbia Faces Trial for Bosnia Genocide - After years of delays, an international court will finally decide whether the Serbian state is guilty of this grave crime - (Balkan Insightより。)

www.balkaninsight.com/en/article/serbia-faces...

人々の心の中の戦争はまだまだ続きますね・・・。

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