December 13, 2005

アンテ・ゴトヴィナはなぜクロアチアでは英雄なのか?(1)



日本ではサッカーのワールドカップのおかげで最近また話題になっているクロアチアですが、クロアチア国内ではこんな重大ニュースで大騒ぎです。

ハーグ国際戦犯法廷から起訴されていた、クロアチアの退役将軍アンテ・ゴトヴィナ容疑者 (Ante Gotovina)が、4年間の逃亡の末、ついに先週スペインのカナリア諸島で逮捕されました。EUがアンテ・ゴトヴィナ元将軍の逮捕をクロアチアのEU加盟の前提条件としていたので、無事に逮捕されてめでたしめでたし・・・かと思ったら全然違いました(-_-;)

多くのクロアチア人にとって今だにアンテ・ゴトヴィナは、クロアチアを独立に導いた英雄のひとりなんですね。クロアチアやボスニア・ヘルツェゴビナの各地で、ゴトヴィナ元将軍をハーグに引き渡したことに対する抗議デモが起こっています。最近一番目立ったのは、クロアチアの沿岸都市スプリト(Split)でおきたデモ行進。なんと、7万人以上が参加しました。また、ヴェチェルニ・リスト(新聞)をはじめとするクロアチアのメディアの多くも、ゴトヴィナ元将軍を擁護する記事を書いています。

参考:Press show sympathy for Gotovina (BBCニュース)

クロアチア人の友人たちに意見を聞いてみたところ、やはりゴトヴィナ元将軍を悪く言う人はいませんでした。以下に書くことは、私が知るクロアチア人たちの気持ちです。

なぜアンテ・ゴトヴィナがクロアチアでは英雄なのか?

  1. クロアチア人を攻撃したセルビア人を撃退し、セルビアに奪われたクロアチアの領土を取り返して国を守ってくれたのがゴトヴィナ元将軍だ。彼が携わった嵐作戦はクロアチアを独立の勝利に導いた。
  2. ゴトヴィナ元将軍は国の命令で動いていたわけであり、責めるなら当時の故フラニョ・トゥジマン大統領を責めるべきだ。

アンテ・ゴトヴィナがそれほど潔白ならばなぜ逃亡したのか?

  1. 国際連合による裁判はあてにならないから、逃げるのは当然だ。例えば、同じくクロアチアの元将軍で、ハーグで裁かれたティホミール・ブラシュキッチ(Tihomir Blaškić)は2000年3月に45年間の拘禁刑を宣告されたが、その後、新しい証拠が発見され、2004年7月には9年間に減刑された。
  2. セルビア人がクロアチアを攻撃し始めたとき、クロアチアが国連に助けを求めても全然信じてくれず、助けてもくれなかった。堪忍袋の尾が切れてクロアチアがセルビア人と戦いを始めたら、国連はクロアチアのほうを責めた。そんな国連がやる裁判をどうやって信用できるのか?
  3. 裁判にかけるならばクロアチア国内で裁かれるべきだ。

まとめ

彼らの話を聞いていると、ゴトヴィナ元将軍が国連に引き渡されたという怒りと共に、国際連合に対する強い不信も感じました。また、クロアチア人からみれば、セルビア人が最初に戦争をしかけてきたという思いが強いようです。例えば、学校で友達(セルビア)にいじめられて先生(国連)に言っても全然本気にしてもらえず、耐え切れなくなってその友達を叩き返したら先生に一方的に怒られた・・・そんな感じかな?これがセルビア人からみたら全く逆の話になり、クロアチアが先に叩いてきた、と主張すると思われます。そういえば、映画「ノー・マンズ・ランド」でもこんな口論やってましたね、セルビアの兵士とボスニアの兵士が。「戦争を始めたのはそっちだろ!」「ちがうよ、そっちじゃないか!」なんて言いながら。

さて、ハーグでのゴトヴィナの裁判、いったいどうなりますでしょうか。

アンテ・ゴトヴィナはなぜクロアチアでは英雄なのか?(2) へ続く

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映画 「ノー・マンズ・ランド」 (allcinema)

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